※この記事は、小学館 Suits womanに掲載していた記事です。サイト閉鎖に伴い、許可をいただき転載しています。
昨今、様々なメディアで目にすることも増えた”子ども食堂”。 気になるけれど、どんなところなのかまだわからない人も多いのではないでしょうか。 私自身もそんな一人です。
そんな中、私の身近に子ども食堂を立ち上げた友人と実際に利用している友人がいたので、さっそく取材させてもらいました。 こども食堂にまつわる、“生のお話”をお届けします。
▷まずは、2人のご紹介から
小野寺いつかさん 高輪ご近所食堂STOCK主宰。4歳になる子どもの母。PR会社などを経て、現在はパートタイムの仕事とこども食堂の主宰という二足のわらじで働いている。実は餃子の世界でも有名。 橋田彩さん(仮名) 都内在住で週末は近所のこども食堂を利用。新しいメニューの考案や、子どもたちと調理もおこなっている。未婚で出産した選択的シングルマザー。フルタイムで働きつつ子育てをしているパワフルママ。
▷こども食堂ってなに?
Wikipediaによると、“子ども食堂は、子どもやその親、および地域の人々に対し、無料または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供するための日本の社会活動”とのこと。 実際は、地域の子どもやその親を対象にしている場合が多いそうですが、高齢者など幅広い世代に開かれた食堂まで様々で、その運営もNPOや地域住民、飲食店、お寺など様々。 大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん」が2012年に始めたこども食堂が、こども食堂のはじまりと言われており、その後日本各地に広がっていき、2020年時点で全国に5086か所のこども食堂がある。(NPO法人 全国こども食堂支援センター調べ https://musubie.org/news/2898/ )
いつかさんの運営しているこども食堂『高輪ご近所食堂STOCK』は、現在は港区の助成を受けている為、港区内在住の高校生以下のお子さんを持つご家庭を対象としていて、主に夜ごはんの提供をおこなっており、コロナ渦では、お弁当の配布や食材の配布などを実施しているそうです。
彩さんの利用しているこども食堂は、朝昼晩の食事の支援をしており、夜ごはん前には学習支援をおこなっているそうです。また、食事の時間以外も、フリースクールとして不登校の子どもたちの学びの場としても活用したり、ものづくりワークショップ、料理体験、農業体験など幅広く活動をしているそうです。
▷こども食堂を利用するようになったきっかけは?
いつかさん「子どもが0歳の頃。引っ越してきたばかりの土地で、周りに知り合いもいないし、夫も仕事が忙しい時期で、子どももまだ泥人形みたいに表情も無い時期で(笑)、孤独感を感じていました。」
新里「わかる、泥人形!育児の不安もあるし、子どもをあやしても笑いもしないし、ホルモンバランスも安定していないし、誰しも産後はうつやノイローゼ気味になりやすいよね。」
いつかさん「それで、散歩中に地域の掲示板でこども食堂の存在を知って、行ってみたのがきっかけです。そこでボランティアをしていた先輩お母さんたちに『育児がんばってるね』と声をかけてもらって、本当に救われた気持ちになったんです。」
新里「育児中は、ほんのひと言で救われる気持ちになるのよくわかります。初めての育児って、不安なことがずっと続いて『これでいいんだろうか?』ってぐるぐる自問自答しちゃうことが多いから、客観的な言葉がすごく嬉しいんですよね。」
彩さん「私は、こども食堂というものがあるのはテレビ等で見て知っていて、自分の住んでいる地域にもあるのか検索して調べて行ったのがきっかけです。去年の5月頃、コロナの流行が本格的になってきて、家に子どもと2人でいる時間が増えて、いつかさんと同じように孤独感を感じてきて、『そうだ、こども食堂ってこの辺りにもあるのかな?』って思って。」
新里「コロナの流行で孤独感を感じるようになったという人、多いですよね。」「まだ話の出来ない赤ちゃんと2人だけでいると、育児のプレッシャーみたいなものに押しつぶされそうな気持ちになったこと、私も経験あります。」
▷彩さんにとってのこども食堂とは?
彩さん「私にとってこども食堂は、血のつながった家族の他にある、“もうひとつの家族”のような存在です。行くと色々な年齢の子どもや大人がいて、子供の面倒を見てくれます。『一緒に育てていきましょう!』と代表の方が言ってくれたことが、とてもありがたかったです。みんなで子どもを見守ってくれる、温かいコミュニティなんです。」
新里「都市部では、核家族が多いですし、ご近所とのつながりを持っている人も少ない気がします。昔よりも孤立しやすい状況にありますよね。そんな中で、かつてのコミュニティ感が取り戻されていっているのはすごく興味深いし、良いことですよね。」
彩さん「今住んでいるところは、いつかさんと同じように、近所に友達もいなくて、実は”産後うつ”になっていた時期もあったんです。」
新里「産後うつって10人に1人がなるって言われていますよね。同じように悩んでいるお母さんは多いんじゃないでしょうか。」
彩さん「こども食堂にいる、高校生や小学生のお子さんがいる先輩ママと育児の話をしたり、子どもも小学生のお兄さんお姉さんと遊んでもらったり、育児を人と分かち合えることが嬉しいです。あと、毎週行っているので、生活にハリが出たと思う!」
新里「彩さんは、食べに行くだけじゃなくて、調理のボランティアもしてるんですよね。」
彩さん「そうそう。こども食堂に集まる子どもたちと一緒につくっているのですが、大人数の食事をどう効率よく作らせるか、子どもが喜ぶメニューは何かとか、考えながらやるのも楽しくて。」
新里「いろんな年齢の子どもと接すると、我が子のこの先の育児にも活かせそうですね。『何年後はこのくらいか?』みたいな感じで。育児に対してどっしり構えられそう。」
彩さん「そうですね。こどもの将来を見据えた育児の勉強にもなりますね。こども達の情操教育にもなるし、こども社会に揉まれて強い子になればいいなと思っています。」
▷いつかさんがこども食堂を作ろうと思ったきっかけは?
いつかさん「その後、港区に引越しをしたら、近所に無かったんです。それで、作るしか無いと思って作りました。」
新里「すごく単純明快な理由だけど…、こども食堂って作るの大変なのでは?」
いつかさん「『こども食堂を作りたいな』と思っていたら、区でこども食堂を立ち上げたい人向けの会がおこなわれていて、そこに出席してお話を聞いていたら、色々と条件が揃っていると気がついて。」
新里「なるほど。……とは言え、条件が揃ってもなかなか、作るとなると勇気が出ない人も多いと思うのだけど。何か信念のようなものがあったのでしょうか?」
いつかさん「子どもが生まれて以来、他のお子さんも同じように大切なものと認識するようになって、お子さんの悲しい事件を目にするたびに胸が締め付けられるような思いとともに、何か自分には出来ないのだろうかとずっと考えてきたんです。」
新里「私も子どもが出来てから、虐待やネグレクトなど、子どもの悲しいニュースがすごく目につくようになりました。」
いつかさん「そして、お子さんを救うためには、まずはお母さんが笑顔でいることが大事だと思ったんです。週1回でもごはんを作る回数を減らすことで、少しでもお母さんが笑顔になれる手助けが出来るんじゃないかって。」
彩さん「すごく良くわかる。毎日ごはんを作るのって結構負担ですよね。」
新里「確かに、自分一人の時はカップラーメンでいいや!なんだけど、子どもがいると『何か作らねば……』ってなります。」
いつかさん「自分自身がこども食堂に救われた経験もあって、気軽に集える場所にもなると良いなと思っています。テレビやニュースでは、『こども食堂=金銭的な貧困を救う存在』として紹介されることが多いけど、こども食堂は、心の貧困を救う存在なんだと思います。」
新里「なるほど。孤独感に苛まれていたり、追いつめられている時に『ああ、あそこがあった』と思える場所の存在って大きいと思う。」
彩さん「私の利用しているこども食堂でも、ご両親が共働きで残業が多いご家庭の子どもたちも、夜ごはんを食べに来てます。利用している人それぞれに事情はあると思うけど、金銭的な理由が全てじゃないと思うんです。」
新里「食堂としての機能ももちろんだけど、みんなの心の拠り所としての存在が大きいんですね。」
▷こども食堂にどういう関わりが出来るのか?独身や学生でも何かできる?
新里「最後に、私自身も含めて『こども食堂に関わりたいけれど、何が出来るのかわからない』という方もいると思うのだけど、どういった関わり方が出来るのでしょうか?」
いつかさん「港区の場合は、“港区子ども食堂ネットワーク”に登録をすると、運営者と支援者の連携はもちろん、メーリングリストで情報共有もしています。最近だと、海外出身の方がボランティア先を探しているとの連絡がありました。何が出来るのか?どんな募集があるのかなど、区の方で相談も出来るそうです。」
彩さん「私の利用しているこども食堂では、大学生や社会人の方が夕食前に勉強を教えに来ていたり、魚屋さんが魚料理を作りにきたり、お蕎麦屋さんが来たり、週末にワークショップが催されたり。様々な職種の方が関わりを持っています。
食材の提供をしてくれるお店も多く、とても助かっているそうです。少し前に、銀座の鉄板焼き屋さんが、コロナの影響で余ってしまった良いお肉を持ってきてくださった時は嬉しかったなぁ(笑)」
新里「自分の得意なことを活かしたり、関わり方もいろいろあるんですね。勉強は教えられないけど、絵を描くことや工作の先生なら私にも出来るかも…。まずは近所にどんなこども食堂があるのかから調べてみようと思います。」
※本記事内で伺ったこども食堂は、たくさんあるこども食堂のうちの2つなので、こども食堂の一例としてご参照いただければと思います。 記事内でも触れたとおり、こども食堂はNPOや個人、団体など運営をしている母体が様々なので、ボランティアの募集や利用者の規約なども千差万別です。詳細は、お住まいの自治体や近隣のこども食堂にご確認ください。
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